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【書評】「原因と結果」の経済学

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先日日経の読書欄で紹介されていた本。ピンと来てさっそく読んでみましたが、これはよい本です。

 

世間の「通説」は間違いだらけ!?

まずは簡単な質問から。

  1. 松岡修造さんが海外取材に行くと、日本は寒くなる。
  2. ニコラス・ケイジが主演する映画が多い年はプールでの溺死者が増える。
  3. 偏差値の高い大学に行けば、その後の収入は増える。
  4. 健診を受ければ、その後長生きできる。
  5. 勉強が優秀な子は運動もできる。
  6. 子供にテレビを見せると、成績が落ちる。
  7. 優秀な経営者には、ジム通いをする人が多い。
  8. 警官の数が増えると、犯罪の件数も増える。

 

さて、これらの通説のうち、正しいのはどれでしょう?

実は、すべて間違いです!

本書のテーマ「因果推論」

一体どういうことなのでしょう?

まずは、これらの問いをもう一度見直し、考えてみましょう。

  1. 松岡さんの存在と、気象現象に何の関係がある?(偶然の一致)
  2. ニコラス・ケイジの何が、溺死者と関連付けできる?(偶然の一致)
  3. 偏差値の高い大学に行ける人は、もともと能力が高いのでは(原因と結果が逆)
  4. 教育熱心な親が、勉学も運動も熱心に習得させているのでは?(第三の理由)
  5. 健診を受ける人は、もともと健康意識が高いのでは(原因と結果が逆)
  6. 子供に教育関連の番組を見せても、成績は落ちる?(条件が不明確)
  7. ジム通いしない経営者、優秀でない経営者とどう比較している?(証明不能)
  8. 犯罪件数が多いから、景観を増やしたのでは?(原因と結果が逆)

もう少し踏み込んで説明すると

  • 一方が変化すると、もう一方も変化する現象がある。
  • それらが、原因と結果の関係にある場合「因果関係」といい、偶然の一致で、お互いに影響を与えていない場合は「相関関係」という。

 なので、上記の仮説は、たまたま関連があるように思われるけれども、実際に影響を与えているわけではない「相関関係」にある事象なのです。

 因果関係、相関関係は数学や論理学、医学や疫学の世界で用いられてきた概念なのですが、経済・社会学の分野に応用され始めたのは1990年代、意外と遅いのだそうです。

 

「筋の良い」考え方に必要なもの

 思い付きや偶然の一致ではなく、因果関係が認められることを証明するためには以下のプロセスを経ることが必要です。

  1. 「原因」と思われる事象は何か
  2. 「結果」と思われる事象は何か
  3. それらはまったくの偶然ではないか
  4. 他の要因が絡んでいないか
  5. 原因と結果が逆ではないのか
  6. 反事実と比較してみる
  7. 比較可能な形に整えてみる

全くの偶然?

そもそも関連付けが難しい事象は3.全くの偶然と考えるしかありません。

 松岡さんは確かに熱い心の持ち主ですが、気候の暑さとの関連を説明できません。ニコラス氏の映画と溺死者については、そもそもそれらの溺死者がニコラス氏の映画を見たのか、その映画を見ることと溺れるという事故にどんな関連があるのか、仮説を立てることも難しいのです。

 ただし、株の世界においては、たとえその出来事が全くの偶然に過ぎなくても、その出来事を予想した株価の変動は起こりえます。

 松岡さん出国⇒日本は寒くなる、と予想⇒鍋料理がその時期はやるかも、と予想⇒関連企業の株上昇、という現象は十分起こり得るのです 

メタボ健診には意味があるのか?

健診に行く⇒長生きできる

 これを証明するためには、アンケートなどで健康への意識を調査し、同じ程度の意識を持つ人同士で健診を受けた、受けていないの二つのグループを作成、それぞれの余命を追跡調査する、あるいは、健診を受けるかどうかをくじ引きなど、本人の意思や意識と関係のない方法で決める必要があります。

 デンマークでこのような調査をしたところ、実は健診の受診とその後の疾病率、余命には関係がないのでは?という結果になりました。

 このような調査には長い時間と多くの費用がかかるため、なかなか実施には至りません。だからと言って、追跡調査は不可能、不要といえるでしょうか?
  日本でメタボ健診に費やされた費用が1200億円、その効果がどれだけあったかについては証明できていない、という事実を鑑みると、そもそもその健診は何のため、誰のために行われたのか?という疑問が発生します。

テレビを見ると成績は「落ちる」のか?

 このことを証明するには、似たような家庭環境の子供同士でテレビを見ているグループ、見ていないグループを作ってテストの結果を比較する必要があります。

 この場合、過去と現在の比較、という手法は適当ではありません。

 中間テスト前はテレビを見なかったので良い点数、期末テスト前はテレビを見たので悪い点数、という比較にはあまり意味がないのです。

 中間テスト、期末テストの比較では、テレビ以外の条件も異なってくるので、テレビ自体の影響がどれだけあったか判別しがたいのです。

 また、テレビを見るとなぜ成績が悪くなるのか?ということについても仮説を立て、条件をそろえて調査を行う必要があります。

 収入が低く、テレビ以外に情報を得られない階層の子供がテレビを見なくなると、情報源がなくなるので成績は低下し、塾や参考書などで勉強している子供がテレビを見ると、学習時間が減るので成績が低下する、という考え方もできるのです。

反事実を想定、正しく比較して真実に近づこう

去年は広告を出したから売れた、今年は出さなかったので売れなかった。

 いかにもありがちな「分析」ですが、学問としての調査ではこのような分析は受け入れられません。去年と今年では、広告を出した、出さない以外にもいろんな条件が異なっているからです。

 広告の効果について調査を行うには、同時期に広告を出した地域と出さなかった地域の売り上げを比較すること、比較の対象は似た地域性の場所であることが必要です。

 所得の高いA地域で高級時計のCMを流し、低いB地域でCMを流さない。結果としてA地域では時計がよく売れた。だから、B地域でもCMを流すべきだ、という説明は通るでしょうか?

 仕事がほしい広告代理店はこのような売り込みをしてくるかもしれませんが、広告料を払う立場の時計メーカー、販売店はやすやすとこの提案に乗るべきではないでしょう。

個人の経験と、一般的な法則とは違う

  • 優秀な経営者はなぜ筋トレをするのか?

  • できるセールスマンはなぜ朝活をするのか?

  • セレブが実践した、驚きの〇〇ダイエット

  • 子供を東大受験に成功させた母親が語る驚きのしつけ

 書店に並ぶベストセラーには、このようなタイトルのものが結構あります。これらをすべてうのみにして、はたして良いものなのでしょうか?

 その成功の原因が、その本に書かれていること以外によるかもしれないし、その成功が、ずっと続くのか、一時的なものなのかわからない。

 読み物としては楽しいけれど、実用性については疑問符が付くものが多いのでしょう。

まとめ:リテラシーを身につけ、より効果的に情報とつきあうようにしよう

「因果推論」は真実に近づくための方法の一つですが限界もあります。

 条件をそろえて比較しようにも、隠された体質やカルチャーの影響を完全にぬぐうことは難しく、ある地域で適用できる説が、他の地域では通用しないこともあります。

 人の行動がすべて理路整然とした動機によってなされるわけでもありません。

 ただ、世に出回るいろんな意見や批評、宣伝文句を、いったんこれらのフィルターに通してみることで、より真実に近づき、賢い対応ができるようになるのはまちがいないと思います。